カポネ
著者:佐藤賢一
「それにしても・・・」
どうして、こんなことになっちまったのかなあ。アルは自らの呟きに捕らえられた。ただ俺はビジネスに励んできただけなのに・・・。それがアメリカ流だったはずなのに・・・。
20世紀初頭のニューヨーク。
イタリア人街の顔役であり、ギャングの大ボスであるジョニー・トリオに見込まれた青年アル・カポネ。
バーテンダーからはじめた彼が、持ち前のビジネスセンスと明晰な頭脳、問答無用の破壊力で、裏社会を支配する帝王になる。
アル青年が暗黒街の帝王としてシカゴに君臨するまでを描いた第1部と、彼に憧れ執拗に追い回す禁酒局特別捜査官エリオット・ネスの栄光と堕落を描いた第2部からなる二部構成。
今まで著者が描いてきた古代・中世とは違い、さすがに近代を舞台にすると、人間離れした器のでかさを持った主人公は書きづらかったのかもしれません。
カルチェ・ラタンは、別として今までの作品の主人公にあった、圧倒的なパワーは残念ながらアル・カポネには見出せませんでした。
しかし、それを補ってありあまる人間臭さ満載で描かれたアル・カポネは十分に魅力的なのでオッケです。
そして、特筆すべきは禁酒局特別捜査官エリオット・ネス。
彼の情けなさが、存分に描かれていて素敵です。
同作者のカエサルを撃てのヴェルティン・ゲトリクスとシーザーの関係を思い出しますね。
中世・古代を舞台にしていない分、破壊力は落ちますが、主人公の魅力は存分に描かれています。
生臭いシーンは、ほとんど無いので暴力描写があまり得意でない人でも大丈夫。